Computer Worldに「ソニー製品に見るユーザーインタフェースの「あったらいい…な?」」という記事を書きました。
記事中、短波ラジオの話が出てきます。コンピュータと関係ないばかりか、デジタルですらないので詳しい話は省略しましたが、ここで、少し技術的に突っ込んだ話をしておきます。そうでないと気が済まないので。
現在、ほとんどのラジオでは「スーパーヘテロダイン」という方式が使われています。これは、放送電波を「中間周波数」と呼ばれる固定波長の信号に変換してから処理する方法です。
中間周波数を用いる利点は主に以下の3つです。
- 回路設計が容易…高周波信号よりも、低い周波数の方がトラブルが少ない
- 混信を減らせる…単一周波数なので、優れたフィルタを利用可能
- 発振しない…中間周波数の一部がアンテナの入力に戻っても周波数が異なるため発信しない(「発振」とはハウリングみたいな現象)
通常、中間周波数の10倍くらいまでの信号を扱うのが効果的とされています。AMラジオでは455KHzが一般的です。中波放送は540KHzから1600KHzの範囲です。3925KHzの短波帯の「ラジオにっけい」(旧称「ラジオたんぱ」)でも問題ありません。
ところが日本のFM放送は80MHzから90MHz、米国では108MHzまでを使います(米国のFM帯域は日本のアナログテレビの1チャンネルから3チャンネルと同じ帯域です)。そこで、FMラジオでは10.7MHzの中間周波数を使うのが一般的です。
10.7MHzは、AM放送周波数に比べて非常に高いので、「回路設計が容易」という条件はあてはまりませんが、他の条件は有効です。
一般に、BCLラジオはAM放送帯域に加えて、3MHzから30MHz以下の帯域をカバーします。実際の放送としては20MHzくらい以下までが多かったと記憶しています。
455KHzの中間周波数を10倍すると4.55MHzなので、20MHzには全然足りません。そのため、ほとんどの短波ラジオは高周波帯域での性能が不足していました。
ソニーの「スカイセンサー5900」は、FMラジオ用の中間周波数回路を短波帯のAM処理に流用することで、この問題を解決しました。10.7MHzの中間周波数は、さらにAM用の455KHzに変換されて処理されます。2回変換するので「ダブルスーパーヘテロダイン」と呼びます。
ちなみに、ダブルスーパーヘテロダインを採用したラジオには三菱電機の「ジーガム」がありましたが、これはほとんど売れていなかったはずです。
スカイセンサー5900に話を戻します。BCLラジオにもFMチューナーは内蔵しているので、10.7MHzの中間周波数は部品点数を減らす上で非常に効果的でしたが、欠点もあります。それは10.7MHz付近の放送が聴けないことです。ここには10MHzの標準電波(JJY)の他は、日本で人気のあるラジオ局はなかったはずですが、切れ目があるのはか悔しいものです。
スカイセンサー5900と同時期に発売され、人気を二分していたのがパナソニックの「クーガ115」です。シングルスーパーヘテロダインですが、中波領域から30MHzまで切れ目なしに受信できるのが「ウリ」でした。
1.6MHzから3MHzの間の周波数は日本では使われていませんが、赤道付近の国が国内放送用に使っているため「トロピカルバンド」とも呼ばれます。あまり一般的な局ではありませんが、そこにあるのに聞けないのは残念です。
Computer Worldの記事に書いたように、操作性が悪いだけでなく、聞こえない周波数があるのが嫌なので、私はクーガ115を使っていました。
なお、パナソニックがスカイセンサー5900対抗機種を出すのは1年後の「クーガ220」です。これは、2MHzの中間周波数を使ったダブルスーパーヘテロダインです。2MHz付近は放送局が本当にほとんどありません。30MHzまでカバーするのもぎりぎり大丈夫です。
スカイセンサー5900のウリだったクリスタルマーカーによる校正機能はもちろん、周波数リニアなダイヤル(周波数が等間隔に並ぶダイヤル)を使うことで、単一ダイヤルで正確な周波数選択ができるようになっています。周波数リニアな特性を持たせるには、コンデンサの容量を複雑な関数曲線に従わせる必要があるため、アナログ的には非常に困難です。そのため、マニアの間では結構大きなニュースになっていました。
しかし、その後、PLL方式の受信機が一般化し、デジタル技術と融合することで、周波数をテンキーから入力するだけで選局ができるようになりました。今までのやり方は(基礎技術を除いて)全く無駄になったということです。
技術者が必死で解決したことも、全く別の技術によってあっさり実現できてしまうのは恐ろしいものです。
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